甘い魔法―先生とあたしの恋―
「ねー、矢野センってば!」
「うるせぇな、ガキには関係ねぇだろ」
茶化す生徒に、矢野が苦笑いを浮かべながら制止する。
……でも、彼女と電話したりとかしないのかな。
あの、異常に薄い上、穴まで開いてる壁を隔ててるだけなのに、矢野の部屋から電話する声が聞こえてきた事なんかないし。
もちろん、彼女が部屋に来た事もないし。
……あたしがいない時を狙って連れ込んでるのかな。
でもあたしほとんど部屋にいるし……。
大人の付き合いってそんなもんなのかな。
それとも遠恋?
「彼女可愛いの? 芸能人で言うと誰?」
「いい加減しつけぇよ」
まだ質問攻めにあっている矢野をじっと見つめてから……目を逸らした。
いつも飄々(ひょうひょう)としてる矢野が、誰かを特別大切にしてるなんて、やっぱり想像できなくて。
昼休みを告げるチャイムが、賑やかな教室に響く。
だけど……。
「っていうか、矢野センって何歳?」
チャイムが鳴っても、生徒からの質問が絶える事はなかった。
教卓の上の教本を揃える矢野に、数人の生徒が群がる。