十人十色-それぞれの恋- 短編集
「じゃあ一階から、まずここが……」
翔くんの声なんて、私の耳には入っていなかった。
翔くんといるだけで、ドキドキしちゃってそれどころじゃない。
「…ぃ…せ…衣都!!!」
「え…」
急に名前を呼ばれて、我にかえる。
「どうしたんだよ?ボーっとしてるぞ?」
「ううん、何でもないよ」
「そう?」
「うん。……あ!私この後用事あったんだ!ごめん、もう行かないと!!じゃ、今日はありがとうね」
私は足早にその場を去った。
だめだ…私、これからもう翔くんと二人で入れない。
二人でいたら……
気持ち抑えられなくなる。