私、海が見たい
「えっ、どないしたのん?」
「あのノート、読ませてもらったわ。
書いている事は全部本当なの?」
「ああ、大体はね。多分に
美化されている部分もあるけど」
「あの歌を読んでゆくと、
次第に立ち直っていってるけれど、
もう完全に立ち直ったの?」
なぜか中村を責めている口調である。
中村は、その口調に戸惑いを感じながら、
「そうやな。ボチボチかな」
「ひどいじゃないの。
私にあんなもの読ませて。
私が一人で苦労してるというのに、
あなたは立ち直って、新しいところへ
行こうとしているなんて」
「えっ。いや…………。
あれは……。その……」
中村は、恵子の言っている事が
はっきりわからず、
どう言っていいものかと考えていると、
突然恵子が泣き出し始めた。
受話器からの恵子の泣き声に驚く中村。
「私が苦労してると言うのに、
あなたは…………、あなたは、……」