私、海が見たい
電話の向うで、恵子は泣いている。
こんな恵子の声を聞くのは初めてである。
痛々しく中村の耳につきささる。
恵子を落ち着かせるように、
「どないしたんやの? ダンナと、
上手くいってないのんか?」
「あの人はいい人よ」
少しの沈黙の後、搾り出すような声で、
「でも………………。
でも……、どうしても愛せないのよ」
この言葉に、中村は絶句した。
恵子は、自分のことなど忘れて、
幸せに暮らしているものだと
思っていたからである。
しかし今、恵子は泣きじゃくっている。
中村は、今の状況を理解するのに、
少し時間がかかった。
しばらくして、ようやく言葉が出た。
「そんなこと言うたって」
「最初はね、
結婚すれば愛せると思っていたのよ。
でも、どうしても、ダメだったの……
どこが悪いという訳じゃ
ないんだけれど」
「そやけど、子供もいるんやろう?」
「“子はかすがい”って言うじゃないの
私も子供ができれば、あの人を
愛せるんじゃないかと思ったの」