私、海が見たい

恵子は泣いている。

中村が何か言おうとした時、
恵子が大きく息をして、

「子供の体が、弱いって
 言ったでしょう。……
 実は、私の子供、
 亜季って言うんだけど………、

 亜季は障害を持っているの」


「障害を」 「…症候群って言う」
「持っているの」
「病名なの」 「障害を」
「治療法はまだ見つかって」
「持っているの」 「ないの」
「障害を」 「染色体の異常」
「持っているの」 「障害を」
「なんだけど…………」


中村は凍りついた。

恵子の言葉は、中村の頭の中を
エコーと共に飛び交っていた。

中村は、病名を聞き漏らした。

いや、むしろ、あまりの衝撃に、中村の耳が
聞くことを拒んだのかもしれない。

中村の目が泳ぐ。
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