私、海が見たい
中村は、まだ、心の整理がつかないまま、
「今、その子は?」
「寝ているわ。
ふだんは別にどうってこと無いの。
ただ、片時も目を離せないんだけど」
「御主人は?」
「あの人は子供を可愛がるから、
それはいいんだけれど」
「じゃあ、ええやん」
「だめなの……………。愛せないのよ」
「努力はしてんのかぃ?」
「私が何もしないで、
こんなことを言っていると思うの?」
「でも、今の話やと、ほとんど君の
わがままのように聞こえるやん」
「あなたは何も知らないから…………」
恵子は何かを思い出したのか、
また、しきりに泣きじゃくり始めた。
恵子の家のダイニング。
泣きながら机の上にある湯飲みを取り、
夫に投げつける恵子。
真冬、大きな川の岸。
小雪がちらついている。
ねんねこに子供を背負って、
恵子が、川沿いを歩いている。
立ち止まり、川面を見つめる恵子。
恵子の泣き声が、中村に突き刺さる。