私、海が見たい
恵子の気持が落ち着いてきた頃を見計らって
「もうダメなんか?」
「ええ」
「一緒には暮らせないのんか?」
「私がね、自分を殺せば、
できないことは無いんだけれど」
「自分を殺すって?」
「私が、自分の考えや意見を
すべて飲み込んでしまって、
ただ、あの人の世話だけに専念すれば、
できない事はないと思うけど」
「しかし、そんなことをして、一生
暮らして行けると思ってんのんか?」
恵子の声が大きくなる。
「子供のためですもの。
私はこの子をずっと
育てて行かなくてはならないのよ」
「でも、自分を殺して
生きて行くやなんて」
「しかたないでしょう」
掃き捨てるように言うと、恵子は黙り込んだ
中村に返す言葉は無い。