私、海が見たい

恵子の気持が落ち着いてきた頃を見計らって

「もうダメなんか?」


「ええ」


「一緒には暮らせないのんか?」


「私がね、自分を殺せば、
 できないことは無いんだけれど」


「自分を殺すって?」


「私が、自分の考えや意見を
 すべて飲み込んでしまって、
 ただ、あの人の世話だけに専念すれば、
 できない事はないと思うけど」


「しかし、そんなことをして、一生
 暮らして行けると思ってんのんか?」


恵子の声が大きくなる。

「子供のためですもの。
 私はこの子をずっと
 育てて行かなくてはならないのよ」


「でも、自分を殺して
 生きて行くやなんて」


「しかたないでしょう」


掃き捨てるように言うと、恵子は黙り込んだ

中村に返す言葉は無い。

< 129 / 171 >

この作品をシェア

pagetop