私、海が見たい
綾の少し前を、聡が、
自転車を押している弘幸と、歩いていた。
聡は、何か楽しそうに、
身振り手振りで話している。
そんな聡を後ろから見ながら、
綾は、少し離れて、歩いていった。
住宅街に入ると、弘幸が自転車に乗って、
角を曲がって帰っていった。
聡は、弘幸の後ろから、片手を上げる。
聡の「じゃあな」と言う声が聞こえてきた。
その後も、綾は聡の少し後を、
同じ距離で、同じリズムで歩いている。
しかし、聡も角を曲がって、帰っていった。
いつものように、綾はそのまま、
まっすぐ歩いて行く。
綾は、聡のほうを見ようとはしなかった。
曲がり角で、綾の横顔の向こうに、
聡の背中が見える。
綾はいつも、この曲がり角で、
自己嫌悪に陥っていた。
“今日も言えなかった”
いつも、告白の機会を窺ってはいるが、
いざ2人きりになると、
尻込みしてしまうのだった。
“彼の頭の中は、バスケットだけなのは、
知っている”
そう、自分を納得させて、帰るのが常だった