私、海が見たい

綾の少し前を、聡が、
自転車を押している弘幸と、歩いていた。

聡は、何か楽しそうに、
身振り手振りで話している。

そんな聡を後ろから見ながら、
綾は、少し離れて、歩いていった。


住宅街に入ると、弘幸が自転車に乗って、
角を曲がって帰っていった。

聡は、弘幸の後ろから、片手を上げる。 

聡の「じゃあな」と言う声が聞こえてきた。

その後も、綾は聡の少し後を、
同じ距離で、同じリズムで歩いている。

しかし、聡も角を曲がって、帰っていった。


いつものように、綾はそのまま、
まっすぐ歩いて行く。

綾は、聡のほうを見ようとはしなかった。

曲がり角で、綾の横顔の向こうに、
聡の背中が見える。


綾はいつも、この曲がり角で、
自己嫌悪に陥っていた。


“今日も言えなかった”


いつも、告白の機会を窺ってはいるが、
いざ2人きりになると、
尻込みしてしまうのだった。


“彼の頭の中は、バスケットだけなのは、
 知っている”


そう、自分を納得させて、帰るのが常だった
< 14 / 171 >

この作品をシェア

pagetop