私、海が見たい
恵子は、ミルクを飲んでいる亜季の
髪をなでながら、
「あなたは、
この子と生活するということが、
どういうことか、
解ってないから……
私、あなたには、
幸せになってほしいの」
「だから…………。苦労する事と、
不幸せとは違うやろぅ?」
恵子は、そのことには答えず、
「あなたが言ってくれたこと、
本当にうれしかったわ。
そのことだけで、私、これからも
生きて行けそうな気がするわ」
「だ・か・らぁ、それは三人で……」
その言葉を遮るようにして、
「ありがとう……。でも現実は、
そんな生易しいものじゃないのよ」
「覚悟してるよ」
「いいえ、それは多分、
あなたの想像を越えてると思うわ」
「そんなことないよ」
恵子は、悲しそうにゆっくり首を振りながら
「ありがとう。でも、あなたには、
この子の父親はできないわ。
幸せなあなたには、わからないのよ」
その言葉を聞いて中村は、
悲しそうに恵子を見た。
“あなたは何もわかっていない”
そう言われたのなら、
まだ反論も出来ただろう
しかし中村は
“あなたにはわからない”と言われたのだ。
中村は、自分が否定されたような気がして、
次の言葉を返す事ができなかった。
悲しそうな顔をした中村。
“あなたにはわからないわ”
恵子の突き放した言葉が、
中村の頭の中を、何度もこだましていた。