私、海が見たい
潮風が、綾の髪を乱す。
綾が、髪をかきあげながら、振り向いた。
「でもね、こんな俺だろ。
結構、いいかげんだからね。
君の姉さんを幸せにできるのは
俺じゃないと気づいたんだろうな。
だから、お母さんは、
お父さんのところへ戻ったのさ。
どうせ、一時の感情で
言ったことだったからね」
「ふーん。そんなことがあったの。
知らなかったわ」
綾が中村の所へやってくる。
「やはり君のお母さんの一番は、
姉さんの幸せだろうからね」
綾は、中村を見る。
中村も、綾を見る。
「でもお母さんだって、何も好き好んで、
君に荷を背負わせたかった
わけじゃないと思うよ。
きっと、長い間、悩んだんだろうな。
しかし、君一人で背負わなければ
ならないわけでもないだろう?」
綾はしゃがみこみ、両手で砂をすくったり、
また撒いたりしている。
「でも、兄さんだって、嫌だと
思っているかもしれないでしょう?」
「君は姉さんの事を
どう思っているんだい?」
綾は、下から、中村を見上げる。
手には砂の山が。
「好きよ………。
時々ムカつくこともあるけど」
「兄さんは?」
「好きよ」
「兄さんは姉さんの事を
どう思っているんだろう」
「さあ、よくわからないけど、
兄さんは姉さんに、優しいわ」
「じゃあ、大丈夫だよ。
二人協力して行けば、
何の問題も無いだろう。
重荷を重荷と感じるかどうかは、
その人の考え方によるんじゃないかな。
縁あって一緒になった、家族じゃないか。
仲良くやろうぜ」