私、海が見たい
綾と中村は、並んで海を見ている。
「でも、その時は俺も、もう結婚していて、
それをお母さんに知らせたのさ。
それからは俺のところには
一切連絡もないし、
離婚の危機も
乗り切ったんじゃないのかな。
君の話だと、今は、
幸せな家庭みたいだからね。
それからしばらくして、風の便りで、
男の子が生まれたと言う話を聞いたよ」
中村は後ろを向き、
手摺に腰をかけるようにして、
「君のお母さんは、
姉さんを幸せにしたいという一心で、
俺のところに来たんだけど、
今度は君たちも
守らなくちゃならないだろう?
君達も大切な子供なんだから。
だから、君たちを悲しませることは
絶対しないと思うよ」
初めて中村のほうを見る綾。
中村は、空を見上げながら、
「もっとお母さんを信じてあげなよ。
お母さんはね、君たちの幸せだけを
願っているんだよ。
ただね、幸せだけの人生ってのは、
それほど面白いものではないとも、
お母さんは知っているんだよ。
君の姉さんがいたからこそ、わかる幸せ。
それを君たちにも、
知って欲しかったんだろうな」
綾は中村の顔をじっと見ている。
中村は上を向いたまま。
「砂糖の甘さは、塩で引き立つだろう?
俺も思うよ。一度きりの人生、
ドラマチックなほうが面白いって」
綾は中村の顔をじっと見て、聞いている。