私、海が見たい
・・・・ 成長 ・・・・
すっかり、元気を取り戻した綾。
綾は上体を中村のほうへ向けている。
もう、中村への警戒心は、微塵も無かった。
「君には誰か、好きな子はいないのかい?」
「いいえ、いないことはないけど………。
片思いなの」
綾の中に、聡の姿がフラッシュ・バックする
通学路。綾と目が合った時の聡の顔
教室で、綾と、前に座っている聡。
体育館で、バスケットをしている聡。
「ふーん、片思いって結構辛いだろう?
でも、その胸の痛みはね、
あとになってみると、
いい想い出になってるんだよ。
だから、悩んで、悩んで、
悩みぬいたらいいんだよ。
そこで得たものは、
結構役に立つからね。
簡単に手に入るものって、
それ程たいしたものじゃないんだ。
どんな子なんだい?」
「どんな子って。普通の子よ。
ちょっと、そっけないかな。
普段、無口なのよね」
「何か、スポーツやってるの?」
「うん、おじさんと同じ、バスケ」
「あっ、そう。
なんか親近感、覚えちゃうな。
バスケットはいいよ、
バスケットは。
強いのかい?」
「うーーん………。まあまあかな?」
「スポーツ選手ってのはね、
相手の立場にたって、
ものを考えるように訓練されるから、
相手のこと、考えすぎるんだよな。
それに、常に苦しさに耐えることを
強いられていて」