私、海が見たい

久美子は綾の横に座り、
真面目な顔で、綾に向かって、

「あんまりお母さんに
 心配かけちゃダメよ。恵ちゃんね、
 あなたのお姉さんが生まれた時も、
 お兄さんの時も、あなたの時も、
 嬉しそうに電話してきたのよ。

 それはもう、ホント、嬉しそうで、
 思わず私も、“子供っていいな”、
 と思ったくらいよ。

 そりゃあ、
 お姉さんのことで大変でしょうけど、
 あなた達だって大切な子供なのよ。
 心配してないわけ、無いじゃない」


「ええ、中村のおじさんにも、
 そんなこと言われました」


「あら、そうなの?ふーん………、
 中村君、意外とやるじゃない。
 じゃあ、私の出る幕は、無いわね。

 ホントはね、何で今頃、ここに
 来たのか、訊こうと思ったんだけど、
 あなたの今の顔を見たら、
 もういいわね。
 すべて解決、したんでしょう?」


「ええ、私今、すっごく幸せな気分」


「そーう、よかったわねぇ」


久美子は、立ち上がる。

「それじゃあ、食事にしましょうか」


「はい。私もう、お腹ペコペコ」


綾も、立ち上がる。

「お母さんのねっ、
 高校生の頃の話、聞きたい?」


「わぁ、聞きたい」


「じゃ、行きましょう、行きましょう」


綾の背中を両手で押すようにして、
二人は居間を出て行った。

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