私、海が見たい

特急電車が行く。



電車の中。綾と亜季が並んで座っている。

その向かいに、恵子が座っている。

綾と亜季は、
楽しそうに笑いながら話していた。

それを微笑みながら見ている恵子。

「あっ、そうそう」


綾が紙袋の中から、筒状のものを取り出し、

「お母さん、これ、中村さんから」


恵子に手渡す、綾。

「お母さんに渡して、って」


「何?これ」


「さくら草だって。

 で、水は入ってないから、
 心配しないでって。

 何のこと?」


「そう………」


恵子はそれを受け取り、
両手で大事そうに、胸に抱いた。



紙筒を抱いた恵子が、電車に揺られながら、
上を見上げ、遠くを見つめる。

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