私、海が見たい

綾が、下から覗き込むように、恵子を見て、


「ねえ、お母さん。
 携帯買ってもいいでしょ」


それを聞いて、恵子が、我に返って、


「何言ってんのよ。ダメよっ。
 この前新しくしたばっかりでしょ」


「この前って、だいぶ前じゃない。
 みんな、新しいものに
 替えているんだよ。だから……」


「みんなは、みんな。うちは、うち。
 お兄ちゃんの大学のお金だって
 バカにならないのよ。

 お父さんは単身赴任してるし、うちは
 そんなお金持ちじゃありません」


「だってぇ」


「あなた、電話代、
 いくら使っていると思ってるの。
 メールだって。
 もう、携帯、取り上げたいくらいよ。

 あるだけ、ありがたいと思いなさい」


「でもー」


「もう、そんなバカなこと言ってないで
 早くご飯食べて、勉強しなさい。
 あなた、来年は、受験生なのよ」


亜紀が顔を上げ、


「そうよ、私のなんか、
 あなたのより古いんだから」


「そうよね。買い換えるのなら、
 まず、お姉ちゃんの方が先よね」


亜紀に同意する母。

綾は、亜季を睨む。しかし、反論はしない。

そして、すぐに目を戻し、食事を続けた。


「ごちそうさま」


そう言って、亜季が席を立つ。

綾の後ろを通り難そうにして、二階へ行く。

無視して、通り道を空けようとしない綾。


「ごちそうさま」 


食事が終ると、つぶやくように言って、
綾も席を立ち、二階へ行った。

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