私、海が見たい

 ------ 母の故郷 ------


もう、夕方になっていた。

空が薄赤い。

プラット・ホームに、電車が入って来た。

ドアが開き、駅のホームに降り立つ綾。

あたりを見回し、
皆の行く方向に、後ろからついて行く。



駅前に立った綾が
メモを見ながら公衆電話をかけた。

不安な顔で、呼び出し音を数える綾。

8まで数えた時、相手が出た。

「もしもし…………、
 私、高島恵子の娘の、
 綾と言いますけど、
 久美子さん?……」

綾の声は、緊張していた。

しかし受話器からは、
明るい声が、返って来た。


「あら、あなた。恵ちゃんの。
 ええ、あなたのことは
 お母さんからよく聞いてるわよ。
 恵ちゃん、どうかしたの?」


「いえ、そうじゃなくて……。
 私、今、こちらに来てるんです」


「あら、恵ちゃんもいるの?
 だったらここに来るように言ってよ。
 またいろいろ話、したいから」


「いえ……、私一人なんですけど」


「あら、そうなの」


「あのう、ちょっと…
 聞きたいことがあって……。
 そちらにお邪魔してもいいですか」


「あら、いいわよ。大歓迎よ。
 あっ、今迎えに行ってあげるから。
 今何処にいるの?」


「えっ。あっ、今、駅の前です」


「あら、そうなの。
 じゃ今からそちらに行くから、
 そこで待っててよ。ねっ、ねっ」


「はい……」


綾は受話器を置いて、あたりを見回した。

田舎の商店街がそこにはあった。

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