私、海が見たい

運転しながら、うれしそうに話す久美子。


「お母さんが一緒じゃなくて、
 残念ねー。また、
 いろいろ話したかったんだけど」


「はい…………」 


うつむいて自分の手を見ている綾。


「恵ちゃん、元気にしてる?」


「はい…………」


「でも、恵ちゃんも大変よね。
 お母さん、あっ
 あなたのお祖母さんが
 亡くなって、
 お兄さん、あなたの叔父さんも
 亡くなっちゃって、恵ちゃん、
 帰る所が無くなって、
 ”ふるさと喪失だ”
 なんて、言ってたわよ」


久美子は、嬉しさのあまり、
綾の事は無視したかのように、
話し続けた。


「はい…………」 


しかし、相変わらず綾はうつむいたまま。


「で、この前、ここに帰ってきた時は、
 私の所に泊まったの。
 私、独り者だからねっ、気楽なのよ。
 久しぶりだったから、
 積もる話もいろいろあってね、
 夜遅くまでいろいろ話したの」


「はい…………」 


綾は相変わらずうつむいたまま。

綾の反応の薄さに、久美子は、
綾のほうをチラッと見て、
また運転を続けた。


< 27 / 171 >

この作品をシェア

pagetop