私、海が見たい

お茶を綾の前に置き、
向かい合って座った久美子は、


「なんか、元気なさそうだけど、
 どうかしたの?
 あっ、お母さんに、
 着いたって、連絡した?」


綾は、下を向いたまま。返事はない。

久美子は立ち上がり、
バッグの処へ行き、携帯を出す。


「じゃ、私が電話しておいてあげる。
 えっとぉ、恵ちゃんの……」


綾は、顔を上げ、
久美子に向かって、大きな声で、


「いいんです」 


びっくりして振り返った久美子は、
綾をしばらく見て、

「でも、連絡しておかないと…。
 恵ちゃん、きっと心配してるわよ」


「いいんです…………私のことなんか……」


また、うつむいて小声になって、


「心配なんかしてませんから」


久美子は、携帯を持ったまま、
努めて明るい声で話しかける。


「そんな事ないわよぉ。
 子供の心配をしない親なんて、
 いないわよ」


「いいんです。私なんか」


久美子は綾の隣に腰を下し、
綾の顔を覗き込みながら、


「お母さんには言ってないの?」


「…………」


「どうかしたの?」


「…………」


「ねえ、何かあったの?」


「…………」 


何を聞いても、下を向いたままの綾に、
返事は無かった。


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