私、海が見たい
---- 1週間前、綾の家 ----
綾は、一週間前のことを、思い出していた。
夜遅く綾が二階から降りてくると、
押し殺したような泣き声が聞こえてきた。
そっと、声のする部屋を覗いてみると、
暗い中、恵子がパソコンの画面を前に、
泣いているようだった。
パソコンの前にいる、恵子の後姿が見えた。
肩が小刻みに揺れている。
パソコンには、メールらしい画面が見えた。
綾はゆっくり後ずさりして、
階段の途中まで上り、
今度は大きな足音で階段を降り、
ダイニングの照明を点けた。
「あーあ、お腹すいちゃった。
何かないのかなー」
わざと、恵子に聞こえるように言うと、
奥から、何事も無かったように
恵子が出てきた。
「綾。何してるの?」
「お腹すいちゃった。何かないの?」
「いけません。今頃食べたら太るでしょ。
ダイエットしてたんじゃないの。
我慢しなさい。
お姉ちゃんだって、我慢してるんだから」
「だって、私は育ち盛りなのよ。
お姉ちゃんとは違うんだから。
お母さんはいつも、
お姉ちゃん、お姉ちゃんって」
怒ったように2階へ上る綾。
そして恵子は、悲しそうに、
その後姿を見つめていた。