私、海が見たい
海岸通りを、車が走る。
左側が開けて、海が広がった。
「わあー、海だー」
綾はうれしそうに海を見る。
また、海が途切れると、
綾が、中村のほうに首だけを向けて、
「お母さんの若い頃って?」
「今の君と一緒だよ。夢見る乙女でね。
薔薇色の未来が開けてて…」
「じゃあ、私とは違うわ」
前を向き、目を下に落とし、声が曇る。
中村は、綾のほうを少し見て、
「そんなことないだろう。
君にだって薔薇色の未来はあるさ」
「でも、私には、見えないわ」
ポツリつぶやき、
窓からまた見え隠れする海を見つめ始めた。