私、海が見たい

海岸通りを、車が走る。

左側が開けて、海が広がった。


「わあー、海だー」


綾はうれしそうに海を見る。



また、海が途切れると、
綾が、中村のほうに首だけを向けて、

「お母さんの若い頃って?」


「今の君と一緒だよ。夢見る乙女でね。
 薔薇色の未来が開けてて…」


「じゃあ、私とは違うわ」


前を向き、目を下に落とし、声が曇る。

中村は、綾のほうを少し見て、


「そんなことないだろう。
 君にだって薔薇色の未来はあるさ」


「でも、私には、見えないわ」


ポツリつぶやき、
窓からまた見え隠れする海を見つめ始めた。


< 51 / 171 >

この作品をシェア

pagetop