私、海が見たい
しばらくして、浴衣姿の恵子が奥から、
孝子に帯を直してもらいながら現れた。
「さあ、早く、早く」
「ごめんなさい。
なかなか帯がうまく行かなくて」
赤い絣の浴衣を着た恵子が、出てきたが、
洋服の恵子しか知らない中村に、
その姿は新鮮で、
後光が射しているように見えた。
「恵ちゃん………………」
中村はしばらくその姿にみとれていた。
「どうかしたの?」
不思議そうに尋ねる恵子に、我に帰る中村。
「えっ。あっ。いやっ………」
見とれていたことを悟られまいとして、
ぶっきらぼうに、
「さぁ、行こか」
「うん」
下駄を履いて、
孝子に向かって明るく声をかける。
「じゃあ、お母さん、行ってきまーす」
恵子は、中村の腕を抱え込むように組んで、
楽しそうに出て行った。