私、海が見たい
人通りの無い、シャッターの下りた商店街。
二人並んで、無言で歩いていた。
恵子は後に手を廻し、帯をつついて、
なんとか、直そうとしていた。
「んもう、また帯、はずれちゃった。
もういいわ」
あきらめた恵子が手を放すと、
帯は、だらんと垂れ下がってしまった。
中村は微笑みながら
そんな恵子を見ていた。
「あー、今日は楽しかったわ。
たくさん飲んじゃった。
みんな変わってないわねー。
俊明君も、変わってないわね」
「まだ卒業して3年やで。
そんなに、変わるわけないやん」
「でも、少し太ったように見えるけど?」
中村は、お腹をパンパンとたたき、
「ああ、今、冬やからね。
また、夏になったら、夏痩せするから、
大・丈・夫」
笑顔で話しかける。
「でも、和夫はすごかったよなあ。
あんなに太ってるとは思わなんだわ」
「そうね。本当にビックリしたわ。
どうしたら、
あんなになれるのかしらねぇ」
「ハハハ。本当に」
二人、顔を見合わせて、笑う。
しばらく、二人はまた、黙って歩いていた。
電器店のシャッターの前に来た時、
中村が、意を決したかのように立ち止まり、
恵子に向かって、真剣な顔で、
「恵ちゃん……、あのぅ…………、
その…………、
俺と……付き合ってくれないかな?」
再び、勇気を振り絞り、
中村は恵子に、そう言った。
突然の事に、立ち止まって、
恵子は、中村を見上げた。