私、海が見たい
-- 現在。車内の、綾と中村 --
車内に流れる、能天気な唄のせいか、
中村の口も、軽くなっていた。
「みんなの前に座らされてね。
まるで裁判みたいだったけど、
そこで俺達、結婚の約束をしたんだ。
それで、俺は大学に退学届を出して、
神戸で仕事を探したんだ」
「えっ、退学って……。
辞めたの?………
せっかく入ったのに………」
「いや、十分、目的は果たしたからね」
「目的って?」
「ああ………。
高校出てすぐに、
就職する気にはならなかったし、
まあ、設計士になるつもりだったけどね。
それにもう少し、
真剣にバスケットもやりたかったし……
まあ、バスケットだけは
十分やったからね。
だけど、 やっと仕事に就いて二日目に、
また、振られちゃった」
「なんで?婚約したんじゃなかったの?
だから、大学もやめて、
仕事を探したんでしょう?
今度は、ちゃんと言ったんでしょうね」
綾の口調は、
中村を責めるものになっていた。