私、海が見たい
----- 前日の夜 -----
午後10時過ぎ。
中村設計事務所の明りが、点いていた。
事務所の中、机の上に、黒電話がある。
中村が、電話の前に座り、
封筒から手紙を取り出し、それを開いて見る
これが最後のチャンスと思います
26日までこちらにいます
夜10時以降の電話は
私が取ることにします
ポップビーン
それだけが書かれていて、
名前はどこにも書かれていなかった。
中村は封筒を取り、もう一度裏表を見てみた
手紙の裏も見てみたが、
やはり、何も書かれてはいなかった。
封筒を置き、手紙を持ったまま、
受話器を取り、悩む中村。
中村は、上を見上げた。
時計が10時5分を差している。
手紙を置き、決心してダイヤルを回す。
一度の呼び出し音で相手が出た。
「もしもし」
期待と不安の混ざった声で、中村が尋ねた。
「もしもし………………。
ポップ………ビーンさん?」
同じく、期待と不安の混ざった声が、
返って来た。
「あなたなの?」
恵子だった。
「ああ」
安心して大きく息をする中村。
受話器から、遠慮がちな声が、聞こえてきた
「こんばんは……………。元気?」