勇者は僧侶のなんなのさ
「私はギルド長として、風紀を正す義務がある」


そう言って一歩踏み出すランス。


その右手は握られていた。


「誤解だって! 風紀を乱すような事はしていないよ!」


「確かに、ここはプライベートな場所であって、個人の自由は尊重されるべきなのかもしれないが、これではあまりに不埒」


必死に弁明するが、聞く耳を持たないランス。


怒りの形相で、また一歩近づく。


恐さで言えば怒った時のシサ並み。


それは、握られた右手が小刻みに震えている事にも関係している。


「本当に誤解だよ! 僕がシサに手を出すはずないじゃないか!」


「誤解? それでは、フェイをシサの部屋で見たという、教会の司祭達のありがたい説教も彼女達の誤解なのか?」


どんどん近づいて来るランス。


そしてこの話は本当なので否定のしようがなかった。


「ちょっと待って! 話せば分かる!」


「私を呼んでおいてこの有様とは。こんなものを披露するためか?」


「そうじゃないし、呼んでなんかないよ!」


しかし、ランスは足を止めない。


ついに目の前。


背が少し低いランスが上目遣い気味に見上げてくるが、もはや恐怖しか感じない。
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