勇者は僧侶のなんなのさ
相手がシサなら夢や希望を感じるのだが、ランスだと何も伝わって来ない。


遺伝的には期待できると古参のギルド長から聞いているが、その素養が今だに見いだせないレベル。


未発達を好む理論派もいるらしいが、現実世界の実践派に言わせれば発達こそ人類の英知を生み出すのだ。


「傷が痛む?」


家のドアノブを握りながら尋ねた。


「待て。まだ入るな」


答えたランス。


口調がいつもより刺々している


早く中に入って休みたいが、このまま入るとシサやミュにいらん疑惑をかけられてしまう上に、さらにランスのご機嫌を損ねそうだ。


ランスもそう言う事だし、しばらく玄関で空を眺める事にした。


同時に、回りにナイフが無いか緊張していた事は言うまでもない。








「という事で、ランスをここまで痛め付ける相手なんてそうそういない。気をつけないと危ないね」


ランスの腕を法力で癒すシサに言った。


ランスの腕はシサの手の平から出るオレンジの光に包まれている。


水が流れるような音が出ていていかにも効果がありそうだが、ランスは眉根を寄せていた。


「痛い?」


「少しな」


ランスは小さな声で言った。
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