魔界の恋模様

「あ、あの…」

咄嗟に弁解しようとしたとき。

「大魔王様っ!」

何かが、物凄いスピードで駆け込んできた。
あ。
スピードつきすぎて、止まれてないよ…。

「何事だ、クリス」

クリスさんっ!
うっわあ…。
こんなにキレイな人だったんだ…。

「レイス様のフィアンセがいらっしゃるって…本当なのですか!?」

ん?どうしてクリスさん、こんなにも…必死なの?
…レイスのフィアンセが来る。
それで必死ってことは。

「恋してるんだっ!」

「ぶっ!」

あ、つい…。
声に出ちゃった。

でもでも!
クリスさんの反応を見るかぎりだと…。
多分、本当に恋してる…のかな?

「まっまさか!…第一、私はただの使用人でございます。レイス様は一応、魔王の血縁者ですよ…」

──叶うわけ、ないでしょう?

そう静かに、消え入りそうな声でクリスさんは言った。

「…ああ。確かに来ると言っていたな」

「そ、そうですか。…分かりました。失礼いたしました」

そして、覚束ない足取りで歩きだしたクリスさん。

──叶うわけ、ないでしょう?

心臓が、波打った。
諦めちゃうの?

…あ、そうだっ!

「クリスさん!」

「…はい?」

「レイス、言ってたよ!浮気もスリルがあるって!」

一瞬、驚いた顔をしたクリスさん。
そして微かに微笑むと再びクリスさんは歩きだした。

…今度は、はっきりとした足取りで。





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