風魔の如く~紅月の夜に~
晶はもう、うんざりしていた。『命に関わる』と連れてこられたら突然、『適合者』だの『特殊な能力』だの意味不明な事ばかり並べられて、果ては自分が一生に渡り、あの化け物に追われると言い出す。
確かに、あの化け物は謎ではあるが、そんなの、どっかの学者みたいに『目の錯覚』だの『アメリカの人体実験の失敗作が逃げ出した』だの、下手すれば『宇宙人』と言ってしまえば説明がつくし、一生一人の人間を追い回す化け物など、出来損ないの三文小説にも出ては来ない。
それよりか、さっきから獲物を狙う鷹のような目をして睨んで来ているミキとか言うこの少女といる方が晶にとっては危険であった。
体格ならば、あの女子特有の低い背と細い体からして、晶が勝っているが、さっきの非現実的戦いが本当ならば、晶にどんなに力が有ろうと無意味だし、相手は二人だ。
幸い、今は片方との距離がある程度有るので逃げられる可能性はあるが、もし、ここで話しでもしていて距離を詰められたら、逃げるのは無理であろう。
(逃げるなら今しかない・・・・・)
そう思うと、晶は入り口に向かって走っていた。
後ろから慌てた二人の声がする。
「待て!ここから出ると危険だ!」
「ミキ君、止めるんだ!」
そうする間にも晶は門を素早く抜け、十字路に飛び出ていた。すぐ後ろから追いかけてくる足音が聞こえる。このままでは、追いつかれるのは時間の問題、晶は一か八か賭けてみる事にした。
少ししてから、ミキが道路に現れる。辺りを見回すが晶の姿は無い。ミキは十字路に少し戸惑うが、すぐに右へと曲がって走っていく。ミキがいなくなったのを確認すると、晶はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、晶は下を見ると凍りついた。晶が隠れていた場所、そこは電柱の柱であった。晶は運動能力抜群とはいかないが、普通より少し高いくらいの運動神経を持ち合わせていたのだ。
晶は恐々と電柱から下りると、ミキとは正反対の左へと向かった。
晶が少し歩くと、コンビニが見えてきた。全国チェーンのセブン○レブンである。
良く考えてみると、まだ晶は夕食を取っていなかった。腹の虫が物欲しげにキュルル~と鳴る。