風魔の如く~紅月の夜に~
(桜井に電話すれば、ここが何処か分かるかもしれない・・・)
杏子の家は不動産をやっているので、周辺の土地には詳しいのだ。晶が携帯の杏子の電話番号を出そうとしたその時である。晶は大切な事を思い出したのだ。
杏子は規則正しい生活をしているので、9時には夢の中、そして携帯に示された時刻は9時を過ぎていた。したがって杏子に頼るのは無理である。携帯の電話帳には他にも記録されてはいるが、どいつもメールアドレスだけである。
(ちっ!メールじゃ間に合わね~!)
晶には薄々、分かっていたのだ。もうすぐ自分に何か悪い事が起こるという事を・・・
晶が、しょうがなく携帯をしまうと、それは訪れた。
『ガウガウ!ガルル・・・ガウガウ!・・・』
遠くから犬が吼えているような声が聞こえる。晶が暫く無視していると、それはどんどんとこちらに近付いてきているようだった。晶がその異変に気がついた時には、それは晶のすぐ後ろに来ていた。
先程のように啼きはしないが、晶の全神経が告げていた。奴らがすぐ後ろにいると・・・晶は唾を飲み込む。唾はゴクリと音をたて、晶の喉を通過する。いつの間にか喉はカラカラになっていた。大樹の言葉が頭をよぎる。
(『化け物に一生、追い回されるはめになる・・・』)
晶は、後ろを振り向いた。