風魔の如く~紅月の夜に~

 電灯の光を受け、ロングヘアーの紅色の髪がまるで、紅い川のように流れている。

「お前の好きなようにはさせないぞ、『知恵の実』の犬め!」
「ちっ!もう来たのか・・・。おい、ガルバーム。餌だ、この女を喰っていいぞ」
『ガオオオン!』

 狼の化け物の四つの頭は、それぞれ歓喜の雄叫びをあげる。
 すると、ミキが晶の前に素早く来た。

「来る!お前は逃げるんだ」
「駄目だ!一人でこんな化け物相手するなんて、危険すぎる!」
「勘違いするな。お前はまだ、式と契約していない。ここに居られても邪魔になるからだ。」
「でも!」
「いいから、早く行け!ここは私が足止めをするから、さっきの屋敷に戻るんだ!」

 そう言うと、ミキは晶を突き飛ばす。晶は、そのまま走り出していた。

(畜生!俺に力があれば!)

 晶は走るスピードをあげ、狼の横を通ろうとしていた。上手くいけば、屋敷にそのまま直行である。

「待て!」

 しかし、狼の前足が晶をなぎ倒すべく、振り上げられた。
 ブンッ!
 前足が振り下ろされたその時である。前足が、晶のすぐ横で停止する。
 ミキが鎖で、止めていたのだ。

「な、何!?」
「言っただろう?『お前の好きなようにはさせない』ってな・・・お前の相手は私だ!」
「この、雑魚が!」

 晶は、その間に通り過ぎ、角を曲がる。それからは、晶の思考は走って逃げる事だけに集中していた。屋敷に着いた頃には、息は上がり、話すのがやっとであった。
< 14 / 64 >

この作品をシェア

pagetop