風魔の如く~紅月の夜に~
しかし、そんな晶を見ると、ミキはフフフッと笑った。
「な、何が可笑しいんだ?」
「お前は、すぐに顔に出るな・・・まるで私とは正反対だ。まあいい、確かにお前は嘘をついて無さそうだ・・・。実を言うとな、本当は葵さんの言う通り、私は後輩が欲しくて堪らなかったんだ。驚いたか?」
晶は実際、驚いていた。ミキの今までの言動から、そういう事には全く興味のない仕事人だと思っていたからだ。晶は、どう答えようか困った。「驚いた」と素直に言えば、相手に失礼かもしれないし、かと言って「驚いていない」と言えば話しの腰を折る事になる。
結果、晶は反応する事が出来なかった。しかし、どうやら最初から反応を求めてはいなかったらしく、ミキは話を続けた。
「馬鹿な事を言うと思ってくれてもかまわない。私はな、実はお前が来るまで、新入りのままだったんだ。
あの神楽姉弟でさえ、私よりも一年早くここにいた。だから、教えられる分でも、自分から人に教える事は出来なかった。だが、晶、今はお前がいる。
だからお前には、私が知っている事を全て教えようと思っている。頼りない先輩かもしれないが、良いか?」
その時のミキの眼差しは、真剣そのものであった。不思議と、その時だけは晶の目にはミキの眼差しが、いつものように怖く感じなかった。
「当たり前じゃないか・・・。俺はまだ入ったばかり、色々と知らない事があるし、まだまだ自分は頼りないと思う。これから、よろしくお願いしますよ?ミキ先輩」
「先輩なんて付けなくても、大丈夫だ。さあ、パトロール続けるぞ!」
そう照れながら言うと、ミキは歩き出した。
この時、晶は、初めてミキの素顔を見たような気がした。
(いつも真面目そうな顔をしているけど、本当は普通の女の子なのかもしれないな・・・)
二人がパトロールを続けると、時刻は十二時四十分になっていた。ミキと晶は、それぞれ顔には表さないが、疲れを感じていた。気を張って行動するというのは、想像以上に気力を消費してしまう。
本当は二人とも屋敷に戻りたかったが、自分が今止めれば、新しい犠牲者が出るかもしれないという思いが、二人を行動させていたのだ。
そして、その二人の行動が実を結んだ。