風魔の如く~紅月の夜に~

「ハッ、ハクシュン!」

寝静まった夜の街角に、自転車をこぐ一つの影があった。その影の主は、鼻を啜る音をたてる。その音は、静かになった街に異様に響く。

彼の名は田中健(41歳)。一応、交番勤務の警察官である。彼の今までの人生は、健という名前のように実に平凡で、質素でつまらないものであった。
そして今日も、そんな日常の一部で終わるはずであった。

健は、自分の腕時計を見る。最近の若者なら、腕時計なんて物、持たずに携帯で確認するのだろうが、彼にはその習慣が無い。
無論、いくらオヤジ世代とは言え、携帯電話を持っていない訳ではない。しっかりとド○モの携帯を持っている。

持っている人が少なくなったMOVAではあるが・・・

では何故、彼には携帯を見る習慣がないか?それは、彼に電話、メール共に送ってくる相手がいないからである。
なので、彼の携帯は何の役目も果たしてはいないため、彼には携帯を見る習慣がないのである。

11時00分

彼の愛用の腕時計はそう告げていた。健は小さく溜息をつく。実を言うと、彼は今日、非番のはずであった。
しかし、同僚の一人の親戚が死に、しょうがなく彼が同僚の代わりにパトロールをしているのである。

とは言え、この街は、殺人だとか行方不明があまり出ないので、健としては気軽く街を自転車で回る感じである。
そうこうしている間に、健は派出所まであと数百メートルという所まで来ていた。

健は、ホッと肩を撫で下ろす。何も起こるはずはないとは言え、やはり、少しは気が張っるというものである。

(・・・・これで今日の仕事は終わりか)

その時である。
ズルリ・・・・ズルリ・・・・
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