風魔の如く~紅月の夜に~

大樹の玉子焼きは、ソースとタバスコで、先程までの黄金色とも言える綺麗な黄色から、オドロオドロしい色へと変わってしまっていた。
晶は思わず眉を顰める。

まだ数回しか食事を一緒にとった事はないが、晶が見る限り大樹は、かなり変わった味覚を持っているようだ。
何にでも、ソースとタバスコを入れるのだ。

さすがに、ご飯やパンにまでは入れないものの、見る側としては壮絶なものがある。
しかし、晶以外は慣れっこなようで、特に咎める様子もなかった。例によって、カイもそれには、あえて突っ込まずに本題に入った。

「今日のニュース見た?あの、隣町の如町の警察が死亡のやつ」
「ああ、あれか・・・」

そう言うと、大樹の箸は、さっきのオドロオドロしい玉子焼きに向かった。
大樹はそのまま、玉子焼きを口にすると、「うん。美味しいな」と一人頷き、言葉を続けた。

「あれがどうかした?」
「どうかしたって・・・闇使いの可能性が高いじゃないか」

そう言うと、カイは自分の鮭の端を器用に箸で切ると、口へと運ぶ。
大樹は、いかにも「そんな事よりも、今は玉子焼きの方が大事!」と言うかのように、カイには目もくれず、玉子焼きを食べながら言った。

「闇使いの可能性は・・・まだ一割って所だと思うよ?殺人なんて目立つ事、あいつ等は嫌うし、こっちに感ずかれる可能性が高いからね。」
「ふ~ん。そうなんだ・・・」
「ああ。カイはまだ子供だから分からないかもしれないけど、そういうもんさ。
 まあ、相手が殺るとすれば・・・・抵抗されて殺してしまうかぐらいだけどね。
 それか、こっちに存在を気付いて欲しい・・・まあ、無いだろうけど・・・・」
「確かに、それは無いね!」

一気に笑いが起こった。こんな、ある意味ハイレベルな会話が、ここでは普通に行われている。晶も、味噌汁を飲むのを止めて、一緒に笑う。まさにマイペースの成す業である。

(そう、まさか自分達の敵にわざわざ気付いて欲しいなんて物好きがいる訳がない)

しかし、後々、この時の事を後悔する事になろうとは、この時の晶は、考えてもいなかった・・・
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