風魔の如く~紅月の夜に~
―十数分後―
晶は、高校に向かう道を歩いていた。この道は、あまり人が通らない。おまけに、ミキは高校に通っていないので、ここを歩いているのは実質上、晶一人である。
今、敵に襲われたら、ひとたまりもないであろう。
しかし、特にそんな心配もする事なく、晶は歩いていく。古くなった家々の壁、時々聴こえてくる雀達の囀り・・・そして、青い空に秋場にしては温かい気温。まさに、晶は気分爽快であった。
しかし、良い事が有ったら悪い事が有るのは当然の事で、すぐに晶の気分は害された。
いきなり、晶の名前を呼ぶ声がしたのだ。
「晶っち~!」
明るい声が朝の静かな道に、遠慮なく響き渡った。まさか、誰かに声を掛けられるとは予想していなかった晶は、思わず眉間にシワを寄せて振り返る。
すると、人が手を振りながら遠くからこっちに向かって走っていた。
最初は、誰かは分からなかったが、近付いて来るうちに分かってきた。
(な、なんでアイツがここに~!?)
一気に晶から滝のように汗が出始める。
そうしている間に、相手は既に晶の前まで来てしまっていた。
走ってきたため、下を向いて荒く息をしている。
「はあ・・・はあ・・・やっぱりココまで走ってくるのはキツ~」
「・・・・なんでお前がココにいるんだ?滝沢」
「ハハハ・・・ココまで走って来たばっかりの人に、いきなりその質問はないっしょ?」
相手は顔を上げた。栗色の髪に、眼鏡の先に見えるつぶらな青い目、透き通るような肌に中肉中背で、外国人にも見える。この美少女は晶のクラスメイト・・・・というより、晶のクラスの副学級委員長で、名前を滝沢ルリという。
なんでも、母親がロシア人で、父が日本人とからしい。
晶は、この滝沢が大の苦手である。滝沢は成績はクラスの上位、性格も決して悪くはなく、クラスのまとめ役として、いつも頑張っている・・・ここまで聞くと、いかにも理想の人のようであるが、ここから先が問題である。
滝沢は、そのあまりにしっかりした性格のため、冗談がきかない。そのくせに冗談好きで、一旦怒ると華奢な体つきとは正反対に、凄い力を発揮する。だから、晶は滝沢が苦手なのである。