風魔の如く~紅月の夜に~

「そ、そうかな?」
「あったりまえ!晶っち~?そんな事が分からないようじゃ、いつまで経っても彼女できないよ~?」
「う、うるさいな~。俺は良いんだよ別に。彼女とか興味ないしさ」
「ホントかな~?」

そう言うと滝沢は晶を覗き込む。この時、晶は内心ほっとしていた。自分が式使いになっても、心配していたような変化が特に見られなかったからだ。
いつもの学校生活が自分が変わっても待っている。

それは、当たり前過ぎて当たり前じゃないのだと、改めて実感させられたのだった。
晶がこんな事を考えていて、返事をしないでいると、滝沢はさっさと歩き出した。
今日は晶のノリが悪いと思ったのかもしれない。晶は、滝沢に続いて歩き出した。

暫く歩くと信号があり、滝沢は静かに足を止めた。それに合わせるように晶も歩みを止める。目の前を数台の車が通り過ぎていく。それを、晶がボーと見ていると、急に滝沢が振り向きもせずに話し掛けてきた。

「そう言えばさ。なんで晶っちはこっちにいるの?確か家、違った方だったよね~?」

それを聞き、晶は思わず言葉を詰まらせる。

(ま、まさか、変な怪物を倒すための集団に入っていて、そこの建物から出て来たなんて言えないしな~。ど、どうしよう?)

そうしている間にも、滝沢は「教えて~」と、振り向きもせずに訊いて来る。
しょうがなく、晶は本当のことを言う事にした。無論、重要な部分は濁してだ。

「ま、まあ何だ。実はこの二日の休みで引っ越してさ。今は、家賃の安い所に住んでるんだ。んで、今日からそこから通うんだ。」
「へ~・・・そうなんだ。」

 抑揚のない声で滝沢は言うと、それ以上訊いては来なかった。
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