風魔の如く~紅月の夜に~
キーンコーンカーンコーン・・・
一時間目の予鈴が鳴る。それは、晶の忘れているある事を思い出させた。
滝沢に頼まれた『学内限定あんぱん・デラックス』である。
「そうそう、桜井」
「何~?」
杏子は、自分の席でプリントと格闘していた。蛇王が休みの前に配布した単元プリントである。
蛇王らしく、質問が分かりにくく、かなり陰湿なので、杏子の眉間にはシワができている。
「今日、滝沢がお前に『学内限定あんぱん・デラックス』を頼みたいとよ」
「え~?いくら私が学食のオバちゃんとかと知り合いでも、二つも取っておいてもらうのはキツイんだけど?」
「二つって・・・お前、毎日食ってるんだから今日くらい食べなくても大丈夫だろ?」
晶がそう言うと、杏子は依然、プリントと格闘しながら答える。
教科書やノートを開いたり閉じたりしている様子を見ると、どうやらかなり苦戦しているようだ。
「ダメなの!あれは、学校生活の楽しみの一つなんだから・・・分かったわよ。一応、二つ頼んでみる。」
それだけ答えると、杏子はプリントとの闘いに集中した。
それから間もなく、滝沢が教室に来ると、授業が始まった・・・