風魔の如く~紅月の夜に~

 明らかに大樹は話しを聞かれていたと思っている。そして、自分は言い逃れをする術がない。

(ここは、正直に聞いていた事を言うしかないか…)

「い、いや~…すいません!さっきの話、盗み聞きしちゃいました!で、でも、わざとじゃないんですよ?たまたま、一階に来たら偶然聞いちゃって…」

(く、苦しい…この言い訳、見苦しい上に苦しすぎる)

 晶は冷や汗をかく。
 すると大樹は、深く溜息をし、ソファーまで晶を連れて行く。その意外は大樹の行動に、晶が戸惑っていると、大樹は晶を座らせ、話しを始めた。

「…晶君、君は聞いてしまったんだね?」
「は、はい…すいませんでした!」

 晶が怒られるのを覚悟して謝ると、大樹は黙りこむ。
 この間、晶は汗を先程以上にかいた。やがて、真剣そうに大樹は口を開く。

「本当は、皆にはしっかりと分かるまで黙っているつもりだったけど…知ってしまったなら仕方ないな。晶君にだけ、先に教えておくよ…」


 こうして、晶は事件の詳細を知った。勿論、晶以外の五人はまだ知らない。
 先に教えてもらっておいて何だが、晶は正直聞いた事を後悔していた。

(よりにもよって、そんな話の後に、鶏肉を焼く羽目になるとは…)

 晶は深く溜息をつく。そう、こんな時に限って米が炊いてあり、米に合う物をと冷蔵庫を見てみれば、偶然有るのは鶏肉と卵ぐらいなものだった。つまり、作れるものはせいぜい玉子焼きや鳥肉料理だけ…晶はさらに溜息をつく。

(今日の朝一番に大樹さんは話すって言ってたのに…惨劇が目の前に広がるような話の後に、肉料理っていうのもな~…まだ知らないなら分かるが、知ってて肉料理作ったってなると、俺がまるで嫌がらせをしているようだし)

 しかし、晶の悩みはこれだけではなかった。どうも、この二日間の事件、何かメッセージ的なものを感じてしまうのだ。

 本当は分からない方が良いのに、わざと自分たちがやったと分かるようにしている…ここに、どうしても引っかかっていた。
 その時である。いきなり二階から降りてくる足音が聞こえた。

 思わず晶は我にかえる。まだ、朝食の名脇役である味噌汁を作っていなかったのだ。
 晶は、急いで味噌汁を作り始めた。
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