風魔の如く~紅月の夜に~
「寒いな…」
晶は、一人で街を歩いていた。見回りをするためである。
本当ならば、今日は自分の番ではないのだが、これ以上、被害者を出さないため全員で見回りをする事になったのだ。
今日の見回りは、晶は何故か特別に感じた。「何処が今までと違う?」と訊かれれば、しっかりとした受け答えは出来ないが、何処か違うような気がしているのだ。
それは、このすっかり冬になった気温と、いつもとは違う一人という状況が生んでいるのかもしれない。
だが、今の晶には特別に感じる理由など、どうでも良かった。
これ以上、犠牲者を増やしたくない。この思いが、晶を夜の街を歩かしていたからだ。
その時である。
ズルリ…ズルリ…
「!?」
微かに、何かを引きずるような音が晶の耳に届いた。
急いで振り返るが、何もいない。いや、何もいるようではなかったと思われた。
晶は、また歩き出す。
ズルリ…ズルリ…
今度は、先程よりもはっきりと聞こえた。
晶は、歩みを止める。それに合わせるかのように、周りが急に静まりかえった。
いつもなら、何処からか聞こえてくる犬の声も、車の音も、果ては風まで全てが止まった。
それは、まるでここ一帯の時間だけが取り残されたようで、何かの前兆とも思え、晶からは、自然とあぶら汗が出始めた。
暫くすると、先程まで止まっていた引きずるような音が、また始まる。
その音は、ゆっくりと速さを増し、確実に近付いてくる。
(いる…確実に何かが近付いてきている)
ズルリ…ズルリ…
そうしている間も、薄気味悪いその音は、まるで獲物をゆっくりと、しかし着実に追い詰める爬虫類のように、晶の背中を目指して進んできていた。
(このままじゃ、いつかは殺られる。となると…)
音が晶の背中にたどり着いた瞬間、晶は一気に振り返った。
「~!」
ビュビュッ! ボゴンッ!
鈍い音が月空に静かに響いた…