風魔の如く~紅月の夜に~
葵が、キサの足下を見ると、そこには異様な物があった。
大小さまざまな幾つもの人形が、キサの足に群がり、動きを封じている。
半分溶けている人形や、黒い汚れが全体にびっしりと付着した人形等々、どの人形もおどろおどろしい姿をしており、キサの足に群がるその姿は、何か執念のようなものを感じさせ、背筋をゾッとさせる。
葵が、人形をキサの足から離そうとするが、人形たちは、がっちりとくっ付いて、セメントのように離れない。
他の四人も協力して離そうとするが、やはり離れない。少し、六人がそれで四苦八苦していると、カイの耳に甲高い声が微かに聞こえてきた。
『痛イヨ…痛イヨ…』
やがて、全員がその声が、人形達からするものだと気付いた頃には、キサの足に群がる人形の数は倍に増え、不気味な声がひっきりなしに聞こえていた。
『熱イヨ…熱イヨ…』
『…何デ捨テタノ?私、アキチャンノ言ウ可愛イ人形ジャナカッタノ…』
『止メテ…パパ止メテヨ…バットナンカ振ラナイデ…痛イノハ、モウ嫌ダヨ』
『オ母サン…何デ包丁ナンカ持ッテルノ?エッ…何デ持ッテクルノ?危ナイヨ…』
その声はどれも、小さな子供のようで、まるで録音した声を再生しているかのように同じ言葉を繰り返していた。
「なに、これ…気持ち悪い」
カイの誰に対してでもない一言は、まだ姿を現さない敵によって答えられた。
「こいつらは、この世そのものだ」
その者は木の上に姿を現した。月光を受け、顔を見る事は出来ない。しかし、そいつが女であると、すぐにミキは思ったのであった。その、月光を受けた身体は、男にしてはくびれすぎ、風で、頭髪がユラリユラリとたなびいている。
(こいつ、間違いなく女だ…)
「どういう事だ!」
ミキがそう問うと、相手は、たなびく髪を邪魔そうに手で払うような仕草をする。
「どうも、こうもない。『この世そのものだ』と言ったんだ。この世には、雑念・怨念なんていうものが存在する。それが人形を通して形となったのが、それらだ。では、お前達は、雑念や怨念が残るか知っているか?」
闇夜の黒薔薇はそう言うと、木の上で座った。そうしている間にも、人形達は増え、いつの間にか、ミキ達は動けなくなっていた。