風魔の如く~紅月の夜に~
「葉菊!」
高らかに言い放つと、いつものように、すらりとした刀が手の中に現れる。
改めて見ると、そのシンプルなボディは、少し力を加えれば折れてしまうかもしれないという錯覚を起こさせるほどに、ほっそりとしていて、傷一つ付けるだけで巨大な狼の式を倒したとは信じられない位だ。
しかし、そんな思いに時間を裂いている暇は今の晶にはなかった。これから、生死をかけた戦いが始まるのだから・・・
相手は、晶が式を召喚した事を確認すると、被っていたフードをおもむろに外す。
すると、フードの下からは綺麗に整った10歳ほどの少年の顔が現れた。
思わず、晶の気が緩む。
「ガ、ガキ~?」
「フンッ!子供だからって馬鹿にすると痛い目みるよ?まあ、すぐ分かるだろうけど・・・瞬殺しないでよ~♪」
そう言うと、少年の目が鋭い眼光を放つ。
「行け!」
その声と共に、蛇が一瞬にして晶の目の前へと跳ぶ。
(なっ、速い!)
慌てて晶は後ろに飛び退くが、相手の声に合わせて蛇が素早く追い、すぐに追いつかれてしまう。いつまでも続くわけもなく、いつしか晶にも疲れが見え出した。
(チッ!こんなんじゃ、式なんて在っても意味がない。せめて、大樹さんでも居れば、この蛇に一発ぶち込めるのに・・・)
すると、まるで晶の心でも見透かしたかのように相手が笑う。
「クスクス・・・『仲間でも居れば』って面してるね~。でも、残念だけどお前の仲間はここに来られないよ?」
「何?どういう事だ!?」
その瞬間、晶の足が一瞬止まってしまった。
当然、相手が見逃すわけもなく、蛇の強烈な体当たりが晶のミゾオチに目にも留まらぬスピードで決まる。
「カハッ!」
「ダメだよ~?闘っている時に気を抜いちゃ~♪ほら!」
先程の体当たりでよろめいていると、すかさず次の体当たりが晶を襲う。
その衝撃で、晶の身体が一瞬宙を浮くと、ここぞとばかりに追い討ちの体当たりが次々と決まる。
「グワッ・・・!」
ズシャシャッ!ガシャン!
晶の身体は勢い良く地の上を転がり、ゴミ捨て場に突っ込む。
晶の意識は朦朧とし、視点が定まらず、身体はまるで雑巾のようにボロボロになっていた。