風魔の如く~紅月の夜に~
(もう駄目だ・・・・身体に力が入らないし、相手も良く見えない・・・俺、死ぬんだ)

 まるで遠くから話しているように、相手の声が聞こえる。

「これで、僕は死なないで済むんだ・・・ん?まだ生きていたんだなコイツ・・・」

 晶が覚悟を決めたその時である何かが晶の耳で囁いている気がする。

『・・・』

(ん?誰かが何か囁いてる?)

『・・・だ・・・・』

(良く聞こえない・・・・)

『もう大丈夫だ・・・』

(え・・・?)

 次の瞬間、晶の意識はとんだ・・・

「全く、こんな奴に一度でも負けたなんて、恥ずかしい。さっさととどめをさすか」

 蛇が相槌の代わりに声をあげ、晶の首に噛み付こうとするが、それは出来なかった。
 晶の身体がゴミ捨て場から消えていたのだ。思わず、蛇共々慌てて姿を探す。
 その時、凛とした声が響き渡る。

「全く、何故私がこんな事をしなければいけないのか・・・」

 声のする方へ視線を送ると、そこには一人の少女がいた。

「お、お前は闇夜の黒薔薇!なぜ邪魔をする!」

 蛇と共に少年が敵意を露わにすると、滝沢はさらりとあしらう。

「うるさい。私は一度もお前の手伝いなどする気があるなどと言った覚えはないぞ?狼使いのライカ。大体、お前もそろそろ出て来いケルベロス」

 滝沢がそう言うと、「フフフッ・・・お見通しでしたか」と、ケルベロスが始めて姿を現した。
 その身体は、黒い布で顔まで覆った上、鎖を巻きつけていて表情が分からない。

 しかし、その目だけはわかった。感情の無い死人のような目・・・思わず、ライカは一歩後ろに下がる。
< 62 / 64 >

この作品をシェア

pagetop