Dragon Fang
首を振り続けるあたしを良壱は怒らない。
ただ、名前を呼び続ける。
「…那瑠?」
良壱じゃない声。
透き通るような、女の人の…………よく知る人の声。
あたしは、我に返るようにその声のした方を見た。
彼女は車椅子に乗っていて、看護婦に押されている。
「…絶対ここで待ってる。」
耳元で囁かれた良壱の声。
…分からない。
でも、自然と手が離れて病室へ戻って行く彼女に着いていく。
「ごゆっくり。」
にっこりと笑って出て行った看護婦の後ろ姿を見て、さっきの亜美を思い出した。
「椅子出して座って。」
あたしは言われた通り、座った。