追憶のマリア
「すごく悩んだけど…おろすなんてできなかった。」


 母は観念して話し出した。


「もしかしたら、アイツの子かもって思ったけど、でも…あなたの子かもしれない…そう思ったら、どうしてもおろせなかった…。」


 母はそう言って目を潤ませた。


「悠斗は…俺によく似てる…」


 男はそう言って、楽しそうに滑り台で遊ぶ悠斗に目をやった。


「成長するにつれて、悠斗はどんどんあなたに似てきて…内心ホッとした。でも…確証はないの…。」


 母はそう言うと、固く目をつぶり、その拍子に目の中に溜まっていた涙が溢れ出た。


「何型?血液型…」


 男が母に尋ねた。


「O(オウ)…」


 母が恐る恐る答えた。


「アイツはABで俺がOだ。」


 彼のその言葉に、母は両手で口を塞ぎ、声を出して泣き出した。


 男は…窪田は…川嶋の血液型なんか知らなかった。


 でも、窪田がとっさについた嘘に、母は救われたんだ。




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