追憶のマリア
途端、ゴールドヘッドの表情が一変した。
「なんつってー。」
不敵に微笑むと、素早く背後に回り込んで母を羽交い絞めにし、どこに隠し持っていたのか、鋭い剃刀の刃のようなものを母の首にあてがった。
ほんの一瞬の出来事。
ゴールドヘッドの動きに無駄は全くなく、でたらめにあてがわれたかのような刃物は、母の頚動脈を正確に捉えている。
母の背筋は凍りついた。
「念のため、一緒に来てもらおっかなぁ。」
ゴールドヘッドは、まるでゲームを楽しんでいるかのような軽い口調で母に言った。
そして、とろけるほどの甘いマスクで、優しく微笑んで囁く。
「まずは、あんたの車で俺んちまで送ってくれる?」
従うしかなかった。
自分の軽率な行動を… 愚かな決断を心底悔やんだ。
高速に乗り、随分走って知らない地名のインターで降りる。
何度も無駄に右折左折を繰り返し、母はすっかり今どこにいるかわからなくなった。
そして、高速を降りて数時間後、見るからに古ぼけたボロアパートの前に車を停車させられた。
その頃すでに日は高く昇り、コンビニや店などまるでないその場所は、昼間だというのに妙に静まり返っていた。
ゴールドヘッドは母を、2階の一番北の部屋に連れ込んだ。
部屋に入ると、どう見ても堅気じゃない男達の視線が一斉に母とゴールドヘッドに集まる。
彼らは息を殺すように押し黙り、身体は動くのを忘れたように硬直している。
部屋中に緊張が走った。
ゴールドヘッドは、中でも一番下っ端と見られる若い男に、母を投げつけるように渡し、
「始末しろ。」
とただ一言、冷ややかに言い放った。
そして、他の連中に向き直り尋ねる。
「藤堂にモノは渡したけど、金を受け取る前にサツに邪魔された。藤堂から連絡は?」
「ありません。」
言い終わるか否か、ゴールドヘッドは机の上に置いてあったガラス製の灰皿を手に取り、答えた男の顔面を力一杯殴りつけた。
「なんつってー。」
不敵に微笑むと、素早く背後に回り込んで母を羽交い絞めにし、どこに隠し持っていたのか、鋭い剃刀の刃のようなものを母の首にあてがった。
ほんの一瞬の出来事。
ゴールドヘッドの動きに無駄は全くなく、でたらめにあてがわれたかのような刃物は、母の頚動脈を正確に捉えている。
母の背筋は凍りついた。
「念のため、一緒に来てもらおっかなぁ。」
ゴールドヘッドは、まるでゲームを楽しんでいるかのような軽い口調で母に言った。
そして、とろけるほどの甘いマスクで、優しく微笑んで囁く。
「まずは、あんたの車で俺んちまで送ってくれる?」
従うしかなかった。
自分の軽率な行動を… 愚かな決断を心底悔やんだ。
高速に乗り、随分走って知らない地名のインターで降りる。
何度も無駄に右折左折を繰り返し、母はすっかり今どこにいるかわからなくなった。
そして、高速を降りて数時間後、見るからに古ぼけたボロアパートの前に車を停車させられた。
その頃すでに日は高く昇り、コンビニや店などまるでないその場所は、昼間だというのに妙に静まり返っていた。
ゴールドヘッドは母を、2階の一番北の部屋に連れ込んだ。
部屋に入ると、どう見ても堅気じゃない男達の視線が一斉に母とゴールドヘッドに集まる。
彼らは息を殺すように押し黙り、身体は動くのを忘れたように硬直している。
部屋中に緊張が走った。
ゴールドヘッドは、中でも一番下っ端と見られる若い男に、母を投げつけるように渡し、
「始末しろ。」
とただ一言、冷ややかに言い放った。
そして、他の連中に向き直り尋ねる。
「藤堂にモノは渡したけど、金を受け取る前にサツに邪魔された。藤堂から連絡は?」
「ありません。」
言い終わるか否か、ゴールドヘッドは机の上に置いてあったガラス製の灰皿を手に取り、答えた男の顔面を力一杯殴りつけた。