追憶のマリア
窪田は今日は無事に仕事を終えた。
昨日は油断した。
アイツがボディーガードを雇うまでのご身分になってたとは、全く知らなかった。
そんなことを考えながら帰宅した。
アパートに戻ると、何だか様子がおかしいのに気付いた。
玄関に自分以外の男物の靴…これは確かれんのものだ。
『しまった…』ツヨシはとんでもないヘマをやらかしたことを悟った。
足早に進み、急いで奥の寝室のドアを開けた。
ベッドには全裸の母が仰向けで横たわり、死んだように動かなかった。
その横でちょうどズボンを履き終えファスナーを上げているところの、上半身裸のれんがいた。
れんは窪田に気付くとニヤリと笑い、
「こんな女の何がいいんだよ?!まるで死体とやってるみたいだったぞ。」
と呆れたように言った。
窪田は背中のハンドガンを抜きながらものすごい勢いでれんに近付き、乱暴にれんをベッドの横にひざまずかせ、後頭部の髪を鷲づかみし、れんの頭部の側面をベッドに押し付け、銃口をれんのこめかみに当てた。
ベッドの上の母が、ゆっくり窪田の方に顔を向けた。
窪田は、激しい怒りに歯を食いしばり、目に涙をためながら母とれんを何度も交互に見た。
窪田はれんの頭を打ち抜きたい衝動を、必死にこらえているようだった。
それから何とか思い止まって、銃口をれんの頭から外し、顔を天井に向け、
「あ~~~~~~~」
と狂ったように叫ぶと、鷲づかみにしていたれんの後頭部の髪を、力いっぱい引き上げてれんを立たせ、その額に思い切り自分の額を打ちつけた。
ゴキッという鈍い音がして、れんは頭をかかえその場に崩れ落ちた。
しばらく床の上で苦しそうにもだえていたが、やがて立ち上がると、額を左手で押さえながら窪田を睨みつけた。
「だからさっさと始末しろって言ったんだ。あんな女に惚れやがって、バカヤローがっ!!」
と吐き捨てるように言った。