追憶のマリア
 二人は孤児だった。


 親に捨てられ、施設で寄り添うように育った。


 だから京子にとって兄は、身体の一部…京子の身体のもう半分と言っても過言ではなかった。


 京子は俺の傍にいることで、俺の無事を傍で感じることで、兄の無事を確信していたのかもしれない…


 その為に俺の傍にいただけかもしれない。


 だから、京子が俺のプロポーズをあっさりOKしたのには、正直驚いた。


 あまりにあっけなくて、嬉しさも感動も半減だった。




 俺の方は心底惚れてたが、京子の気持ちの方はさっぱり分からなかった。


 捜査対象の嘘は簡単に見破ることができるが、女心は全く不得意な分野だった。


 よくそのせいで京子を怒らせた。


 『もう!駿はほんっと女心がわかんないんだから!』


 京子の口癖だった。




 兄の無事を、俺をとおして信じている京子。


 たとえその為だけに、俺と一緒になるんだとしても構わない。


 俺がずっと傍にいてやる。


 お前の兄が帰って来るまでずっと…






 だから尚更、俺は不死身でいなきゃならなかったんだ。








< 52 / 107 >

この作品をシェア

pagetop