追憶のマリア
 田所が奢ってくれた、たこ焼きを母が頬張っていると、あの誰も逆らえない満面の笑顔で田所が言った。


「明日も代わって。」


 母が目を細めて冷ややかに田所を見やると、悪びれる様子もなく、へへへ…と笑っている。


「明日は、『たこ焼き』じゃなくて『映画』ね!」


 母が膨れて交換条件を出すと、


「ええー!高くつくだろ!?」


 と田所は不満げに反論する。


「自分の分、自分で出すから…付き合ってくれるだけで…いい…です。」


 もじもじしながら母がそう言っても、田所は母の気持に全く気付く様子もなく、「俺の分は?」などと厚かましいことを言っている。


 どうしてこんな鈍感野郎に恋をしてしまったのだろうと、母は自分を激しく呪った。






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