追憶のマリア
 彼女と結ばれたことは、俺にとって、この先一生分の幸せを、全て先払いしてもらったようなものだった。


 もうこの先、俺にいい事なんか何もないだろう。


 けど、彼女を愛した事で、この先の人生をちゃんと生き抜こうとも思えた。


 そして、恐いくらいの幸福感に、俺は泣いた。


 浴室で降り注ぐシャワーの下、一人で泣いた。








 その後も俺達は、何事もなかったように、ほとんど関わることなく過ごした。


 お互い、決して一緒にはなれないと知っている。


 彼女には家庭があり、俺には任務があった。








 でも…





 そんな関係も、悪くないかな…







 俺は彼女のおかげで、束の間の安らぎを得た。







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