追憶のマリア





「お前…いくらなんでもやり過ぎだ。」


 寂れて人気のほとんどないポルノ映画館で、俺が座席に座るなり左斜め後ろから声がした。


「何がですか?」


 俺はスクリーンを見たまま尋ねた。


 スクリーンには、女の裸体の一部がデカデカと映し出され、途中から見た俺にはどの部分か判別不能だった。






 声の主はわかっていた。


 俺の上司、青山さん。


 一応肩書きは『警視』らしいけど、青山さんは偉そうにしないし、常に現場にいる俺にはあまり実感がない。






「藤堂の秘書がお前の顔をしっかり覚えてた。」


 青山さんは溜息混じりに言い、


「それはもう映画俳優のポスターみたいなモンタージュが出来上がったぞ。」


 いつものように俺の顔を茶化した。


 俺もいつものようにそんな青山さんのイジリには一切触れず、


「何か問題ありますか?」


 と無愛想に言った。


「大有りだ。お前のことは俺と警視総監しか知らねぇーんだぞ。お前の存在は、言ってみりゃ国家機密なんだ。」


 熱くなる青山さんに、ふ~ん、とそっけなく返事をした。


 そんな話、正直どうでも良かった。


 興味もなかった。


「整形すっかな…。俺、この顔嫌いだし。」


 俺はボソッと呟いた。





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