追憶のマリア
秋の深夜。
港を吹く風は冷たく、容赦なく俺の体温を奪ってゆく。
俺は薄着で来てしまった自分を恨み、風を避けて風上に向けた背を丸めて、くわえたタバコに火をつけた。
俺は若いヤツ二人と港に立ち、対象が現れるのを待った。
れんと他の仲間達は、目の前のデカイ倉庫の中にいるらしい。
俺は蚊帳の外か…
だとしても問題はない。
用心深いれんのことだ、俺を警戒しているだけのことだろう。
そんなこと考えながらタバコを吸い、吹き付ける冷風に顔をしかめて真っ黒な海を見ていた。
暗闇の中に、ぼんやり灯りがともった。
その灯りはだんだん近付いて来る。
「来たぞ。」
俺が若いヤツ二人に言うと、そのうちの一人が倉庫へ走った。
灯りは次第に大きくなり、やがて小型の漁船が姿を現した。
『計画を実行する。』
俺は限界までボリュームを絞った小声で、身に付けている盗聴器に向かって囁いた。
倉庫の中からフォークリフトが出て来て、甲高いエンジン音を鳴らしながらこちらへやってきて停車した。
一人の男が漁船から降りてきて、漁船に乗ったままの男達と、バケツリレーのようにして手際よく積荷を降ろし、フォークリフトを運転しているヤツは、鮮やかにフォークリフトを操り、倉庫内にそれを運んだ。